薄毛は遺伝する?薄毛にまつわる豆知識

家族や親せきに薄毛の方がいると、遺伝の影響が心配になるはずです。多くの方が指摘する通り、薄毛は遺伝するのでしょうか。薄毛と遺伝の関係を詳しく解説します。将来の薄毛を心配している方などは参考にしてください。
▼目次
男性の薄毛の多くは男性型脱毛症
一口に薄毛といっても原因は様々です。日本人男性に特に多いとされているのが男性型脱毛症です。日本皮膚科学会によると、日本人男性の発症頻度は全年齢平均で約30%と考えられています。年代別では、20代で10%、30代で20%、40代で30%、50代以降で40数%が男性型脱毛症による薄毛を発症するとされています。 [1]
男性型脱毛症の症状
男性型脱毛症は、20代後半から30代にかけて薄毛が目立ち始め、徐々に進行して40代以降に完成するケースが多いようです。具体的には、前頭部や頭頂部が局所的に薄くなり、徐々に進行して最終的には前頭部・頭頂部の髪の毛がなくなります。いわゆるM字ハゲやO字ハゲ、U字ハゲなどが代表的です。[2]
男性型脱毛症の原因
男性型脱毛症を発症すると、ヘアサイクルの成長期が短くなり、休止期のまま経過する髪の毛が増えるため薄毛になります。ヘアサイクルとは、髪の毛が太く長く成長する成長期、髪の毛が成長をストップする退行期、髪の毛が抜け落ち生え変わる準備をする休止期から構成される髪の毛が生え変わるサイクルです。[3]男性型脱毛症を発症した髪の毛は、通常2~7年といわれるヘアサイクルの成長期が数カ月~1年程度まで短縮されます。髪の毛が太く長く成長できなくなるので、細く短い軟毛が増えます。
男性型脱毛症の原因は、毛乳頭細胞に運ばれてきた男性ホルモンのテストステロンが2型5αリダクターゼの働きにより活性の高いジヒドロテストステロンに変換されることです。ジヒドロテストステロンが毛乳頭細胞に存在するアンドロゲンレセプターと結合することで、毛母細胞の増殖が抑制されるため、ヘアサイクルの成長期が短縮されます。男性型脱毛症の発症に遺伝は関わっているのでしょうか。
男性の薄毛と遺伝の関わり
男性型脱毛症の発症に、遺伝は深く関わっていると考えられています。発症の鍵を握る5αリダクターゼの活性の高さとアンドロゲンレセプターの感受性に遺伝が関わっているからです。具体的に、どのように関わっているのでしょうか。
5αリダクターゼと遺伝
薄毛の原因は男性ホルモンの量といわれることがあるようですが、男性ホルモンの量に大きな個人差はないと考えられています。個人差があるのは男性ホルモンを変換する2型5αリダクターゼの量です。この量が多い方は、ジヒドロテストステロンが多く作られるため、薄毛になりやすいと考えられています。
5αリダクターゼの活性の高さを決めているのが遺伝です。活性の高さを決める遺伝子は、優性遺伝により受け継がれます。すなわち、両親のどちらかが5αリダクターゼの活性の高い遺伝子を持っていると子どもに受け継がれます。この遺伝子を受け継いだ方は薄毛になりやすいと考えられます。
参考:『薄毛遺伝子の解説』湘南美容クリニック薄毛治療情報サイト
アンドロゲンレセプターと遺伝
アンドロゲンレセプターの感受性にも個人差があります。ジヒドロテストステロンと結びつきやすい方もいれば結びつきにくい方もいるのです。ジヒドロテストステロンと結びつきやすい方は薄毛になりやすいと考えられます。
アンドロゲンレセプターの感受性は遺伝で決まります。感受性を決める遺伝子は、母方から受け継がれるX染色体上に存在します。母方の祖父が薄毛の方は、50%の確率で薄毛になりやすい遺伝子を持っていると考えられます。[4]薄毛になりやすい遺伝子を受け継いでいても母親が薄毛にならない理由は、髪の毛の成長を助ける女性ホルモンに守られているからです。
薄毛の遺伝子は調べられる
家族や親せきが薄毛の方は、自分に薄毛の遺伝子が受け継がれているか気になるはずです。薄毛の遺伝子は次の方法などで調べられます。
薄毛の遺伝子検査
薄毛の遺伝子は、毛髪や血液、頬の粘膜などを用いた遺伝子検査で調べられます。具体的には、アンドロゲンレセプターの感受性を調べられます。アンドロゲンレセプターの感受性は、CAGリピート・GGCリピートが基準値より小さければ高いと考えられています。多くのクリニックで基準値とされているのが、CAGリピートとGGCリピートの合計で38です。これより小さい方は、AGAのリスクが高いと評価されています。
参考:『AGA遺伝子検査の信憑性はあるの?』肌のクリニック院長のAGAブログ
薄毛の遺伝子検査は信用できる?
多くのクリニックは、薄毛の遺伝子検査でAGAのリスクを評価できると考えています。一方で、AGAのリスクとCAGリピート・GGCリピート数に相関関係はないという意見もあります。小規模な試験で相関関係が報告されたものの、後に行われた8つの研究のメタ解析で相関は認められないと否定されたからです。
参考:『AGA遺伝子検査の信憑性はあるの?』肌のクリニック院長のAGAブログ
フィナステリドの効きやすさが分かる遺伝子検査
薄毛の遺伝子検査を受ければ、フィナステリドの効きやすさも分かると考えられています。フィナステリドは、テストステロンをジヒドロテストステロンに変換する2月型5αリダクターゼを阻害する有効成分です。CAGリピート数が短い人ほどフィナステリドは効きやすいと考えられています。ただし、遺伝子検査の結果と実際の効きやすさが完全に一致するわけではないようです。
薄毛の原因は遺伝だけ?
以上の通り、遺伝は薄毛の発症に影響を与えると考えられてます。家族や親せきが薄毛の方、薄毛遺伝子を受け継いでいると考えられる方は、がっかりしたかもしれませんね。気持ちはわかりますが、まだあきらめる必要はありません。薄毛になりやすい遺伝子を持っていても、薄毛にならないことはあるからです。薄毛は、遺伝以外の要因でも発症します。その他の要因に気をつければ、薄毛を予防できる可能性はあるといわれています。
食生活に気をつける
栄養不足に陥ると髪の毛の成長は滞ります。薄毛を予防したい方は、栄養バランスの取れた食事を1日3回決まった時間に摂るように心がけましょう。一般的に、育毛に良いといわれているのがタンパク質、亜鉛などのミネラル類、ビタミン類です。薄毛を予防したい方は、積極的に摂るとよいでしょう。
運動習慣
身体を動かすと全身の血行が良くなるので、髪の毛に栄養や酸素などを届けやすくなります。また、ストレス解消にもつながります。適度な運動習慣も育毛に役立つと考えられています。薄毛を予防したい方は、ウォーキングやジョギングなど体力に合わせた運動に取り組みましょう。
質の高い睡眠
質の高い睡眠は育毛を助けます。髪の毛の成長を助ける成長ホルモンが分泌されやすくなるからです。また、睡眠にはストレスを解消する働きもあります。睡眠の質は、起床時間を揃える、朝日を浴びる、日中は活動的に過ごすなどで高められます。
適切なヘアケア
頭皮環境を整えるため、適切なヘアケアに取り組むことも重要です。頭皮環境が荒れると健康な髪の毛を育てにくくなるからです。頭皮環境が気になる方は、地肌に優しいスカルプシャンプーなどを活用するとよいでしょう。育毛剤などの併用もオススメです。
まとめ
男性の薄毛の多くは男性型脱毛症と考えられています。男性型脱毛症には遺伝が関わっています。具体的には、5αリダクターゼの活性の高さとアンドロゲンレセプターの感受性の高さに遺伝が関わっています。活性・感受性の高い遺伝子を受け継いでいる方は薄毛になりやすいと考えられます。ただし、遺伝がすべてを決めるわけではありません。生活習慣やヘアケアなどに気をつければ、薄毛になりやすい遺伝子を受け継いでいても予防できる可能性はあるといわれています。心配な方は、生活習慣やヘアケアなどを見直すとよいでしょう。
この記事をつくるのに参考にしたサイト・文献・脚注
[1][2] 参考:『男性型脱毛症診療ガイドライン(2010 年版)』日本皮膚科学会ガイドライン
[3] 参考:『髪の成長とヘアサイクル』花王
[4] 参考:『禿げは遺伝するのか?』あやべビューティークリニック福岡